美子の取材日記(三) 卵の形は 神さまの工夫

○ぶどうの枝第50号(2019年6月30日発行)に掲載(執筆者:YK)

 三十年以上前のこと。後に映画『ナイトミュージアム』の舞台になったニューヨークのアメリカ自然史博物館で、恐竜の骨格標本に釘付けになった。心の中をじっとりとのぞき見られた気がしたものだ。
 あれからというもの、恐竜には一目置いていて、恐竜展と聞くと出かけていく。いろんな時代のいろいろに進化してきた彼らと同じ空気の中に自分もいると想像するだけで、うきうきしてくる。一番のお気に入りは、背中がギザギザのステゴザウルスだ。
 あるとき、上野の国立科学博物館で学芸員さんが解説してくれた。夜遅い週末の閉館時刻まで、カイコの繭を大きくしたような卵の化石の前で、その形についてやけに熱心に教えてくれたのだ。
 「『卵型』というと、ニワトリをはじめ鳥類の卵みたいに片方がとがっている楕円の形を思い描くと思います。でも、卵には魚のように真ん丸の形もたくさんありますよ。では、なぜニワトリの卵があんな形なのかというと……」
 鳥の卵も魚のように球の形だと、高い木の枝につくった巣から落っこちたら、どこまでも転がって親鳥のそばから離れてしまう危険性がある。いっぺんに少しの卵しか産まない鳥類は、守ってくれるお母さんから見えないところへ転がって行っては困る。木の上に住まなくなったニワトリの卵の形も、太古の時代の名残りなのだそうだ。かたや魚の場合は、一度にたくさんの卵を産むから、水の流れにさらわれても大きな魚に食べられても、ほんの少しの子どもさえ生き延びれば絶滅することはない。
 「ニワトリの卵はテーブルに置くと初めのうちはぐりんぐりんと不安定ではあるけれど、そのうちに止まるでしょう?片方がとがったあの卵型だからこそお母さんの目の届くところから離れず、生き延びられるというわけです」
 なるほど、よくできている!どんなに優秀で奇抜な発想のデザイナーだって、単純だけど不思議なあの形は思いつきそうもない。誰もが知ってる卵の形にそんな重大な秘密の理由があったなんて!
 あまりの感動に、一緒に面白がってくれそうなバラエティ番組の構成作家、高須光聖さんに自慢した。彼は「母親の愛とちゃうか!」と喜んで、幼なじみで仕事仲間の漫才コンビ「ダウンタウン」の松本人志さんにひけらかした。
 すると、こんな反応が。
 「ホンマかいな、ごっつええ話やんか。せやけどなぁ……魚のおかんかてニワトリと変わらんくらい子どもを大事にしてると思うで。その話、魚のおかんが聞いたら気ぃ悪うせぇへん?」
 まったくだ。さすが気遣いの人、マッちゃんらしい言葉であった。卵型はお母さんの手柄ではなく、神さまの工夫なのだった。

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