美子の取材日記(四) ちょっとミゼラブルで 素敵なクリスマス

○ぶどうの枝第51号(2019年12月22日発行)に掲載(執筆者:YK)

 十一月に御殿山のキリスト品川教会に行った。パイプオルガンに段々の席の、コンサートホールみたいなその教会で、歌手の知念里奈さんのライブがあったのだ。オープニングは『アメイジング・グレイス』。そしてミュージカル『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』からの名曲をゲストの山崎育三郎さんらと一緒に歌いあげた。もちろんクリスマスに向けて穏やかで美しい『ノエル(まきびとひつじを)』も。
 神戸の六甲に住んでいた小学校低学年の頃、小さな冒険をしたのを思い出す。弟と二人で近くの川を東へ渡って、隣町・御影(みかげ)の教会にドキドキワクワク初めて行ってみたのだ。クリスマスが近い頃のことで、しばらく通った気がする。
 クリスマス会では子どもたちが家から持っていった衣裳で扮装して、お芝居をした。弟はイエスの誕生を祝う三人の博士の一人の役をもらい、母が用意した新しいシーツをマントのように工夫して巻きつけていた。帰りにおやつをもらって、手作りのお芝居は学校の学芸会よりうんと楽しかった。
 ところが、弟はそれっきり教会には行かなくなった。その理由が何十年もたった最近になって判明したのだ。シーツのマントをひるがえして出番を待っていた弟に、誰かが言ったそうだ。
 「あら、あなたは貧乏な博士ね」
 自分で工夫するように母が持たせたシーツが、その人にはふびんに映ったのかもしれないけれど、弟は母の思いを踏みにじるようなその一言で思いのほか深く傷ついたようだ。だって、「へぇ、そんなことがあったんだ?」とわたしは笑ったけれど、彼は真顔になって黙ってしまったから。
 他の博士役の子は立派な衣装を母親が縫ったんだろうか。毎週、帰りにおやつをもらえるので、わたしはしばらく通い続けてとうとう詩編二三編を覚えたんだけど。
 さて、『レ・ミゼラブル』で意地悪でこざかしい育ての親テナルディエ夫妻にいじめられていた小間使いの少女・コゼット。意地悪夫妻のもとにジャン・バルジャンが彼女を取り返しに行ったのもクリスマスのことのようだ。二百年くらい前のお話。
 ミュージカル『レ・ミゼラブル』でバルジャンを演じてきた俳優の別所哲也さんが言った。
 「知ってる? 『レ・ミゼ』ってさ、キリスト教的な物語で……」
 旧約聖書と新約聖書、ジャべールとバルジャン……。
 「バルジャンがコゼットを父親のような心で救って、彼自身の暗くて長い人生の最期に報われたように、人のために正しく生きればきっと天に昇れるんだよ」
 おやつ目当てに教会に通っていた子どもの頃が懐かしい。