随想 MIさんとの思い出 「ばあちゃんドクターヘリに乗る」

○ぶどうの枝第56号(2022年6月26日発行)に掲載(執筆者:MO)

 MIさんが天に召されとても寂しくなりました。Iさんとの思い出はたくさんありますが、一番の思い出は「ありがとう神様」の本をいただいたことから始まりました。その中には、Iさんが急性心筋梗塞の発作を起こし、ドクターヘリで運ばれた経験を書かれた「ばあちゃん ドクターヘリに乗る」が載っていました。
 当時私は、N大学C病院、内科医局秘書として勤務しており、研修医の先生方が読まれたら、きっと良い参考になると思いました。ドクターヘリで運ばれた患者目線で書かれたリアルな文章だったからです。
 研修医は、二年間の間に進む専門を決めます。医局には各自の机のほかにソファーとテーブルがあり、外来が終わった後など、休憩できるようになっています。そのテーブルの上に「ありがとう神様」の本を置いておきました。すると何人かの研修医が興味深く読んでおられました。
 それなら救命救急に配属されている研修医こそ、ご参考になるのではと思い、救命救急の秘書さんにお願いして医局に置いていただきました。何日かたって救命救急の秘書さんから、「M先生がこれはとても良い。HEM―Netに掲載したいから原稿のデータが欲しいとおっしゃっている」と伺い、驚きました。
 M先生は、当時千葉北総病院の救命救急教授で、ドクターヘリを立ち上げた先生です。救急ヘリ病院ネットワークHEM―Netとは、ドクターヘリによる医療システムの普及を目的として活動している組織です(現在のようにドクターヘリが全国的に知られておらず、普及にご苦労されていた時期でした)。
 研修医の先生に、患者さん目線でのIさんの作品はきっと何かを感じてくださるだろう、良いお医者様になっていただきたい、そんな軽い気持ちでの行動でしたので、私も驚きましたがうれしくて、すぐにIさんに連絡を取りましたが、Mさんはお留守で、電話に出られたI先生からは、「データはありません」とのお返事。
 データでお渡しできなければ、掲載はできないとのことで、それは残念なので、私が入力して提出することにしました。
 HEM―NeTに掲載されたIさんの「ばあちゃんドクターヘリに乗る」を私も拝見しとてもうれしく思っていたところに、Iさんからご家族がとても喜んでくださったと伺い、より一層うれしかったことを思い出しました。
 医局秘書の仕事は、先生方の事務的なことから多種多様です。若い先生は息子や娘の年代でもありいろいろ相談も受けました。
 そんな先生方がご立派になられる成長過程を拝見できるのは、日々神経を使う仕事でもありましたが、楽しい仕事でもありました。そんな中で「ありがとう神様」を読んでいただきたいと思ったもう一つの理由としては、前編にI先生の「マタイによる福音書」が載っていますので、聖書との出会いになればとの思いもありました。そのときの研修医の先生がお一人、急命救急に進まれ現在活躍されております。私は勝手にIさんの本との出会いが少しあるのでは……とひそかに思っています。